引っ越しを境に,僕は精神を病んでいった。彼女は,僕に云った。「川の見えない街で ずっと暮らしてゆくの?」
アップル社は,BSDユニックスのパワーと,マックGUIの柔軟性を結合したモダンなOS,マックOS Xをリリースした。プリエンティブマルチタスクと保護メモリ機能を実現しながら,ほとんどのOS 9アプリケーションが動作。強力な開発ツールも付属する。だが古くからのマックユーザーは,家の中を勝手に模様替えされたような大きな違和感をおぼえるかもしれない。
なにが原因かなんて,わからなかった。苦手な人付き合いも以前と同じ,別にうまくいっているわけぢゃないけど,気に病むほどじゃない。だが,日常の中で,目は眩み,心の崩壊の音を聴いた。なにが原因か,誰もつかめずにいたのだ。だが,療養のためにと以前住んでいた場所に戻って来て,気付いた。川の流れが,僕の心を静めた。僕は,生まれてこのかた,この川から離れて暮らしたことがなかった。跳ねる水飛沫,陽の光を照らす水面,そして,あの日,風に舞った彼女の麦藁帽子を運んだ川の流れ。たったそれだけのことだったが,僕には,川のない街での生活は耐えられなかった。
麗しのマックOS Xは,使いやすさに多少の支障を持っている。iCabのブックマークが文字化けするとか,意味不明のアクセス権でファイルアクセスができないこともあった。だが,便利な街であっても,生きていけないこともある。いつも暮らしていては気付くこともない,単なる川の流れに,救われていることもある。それがなくちゃ,ダメなこともある。この川の流れに,僕は,答えをみつけている。
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